#8's notebook

適当めも

将来の世代に協力するゲーム理論課題

'Cooperating with the future' Hauser OP et al., Nature, 2014

この研究では新しいゲーム課題であるIntergenerational Goods Game (IGG)を用いた実験が紹介されている。このゲームの最大の特徴は、自分の振る舞いが次の世代への更新、すなわちゲームの持続性に影響するということである。

IGGでは5人1組のグループ(generation)が形成され、各々が100ユニット入りのプールから自分が欲しい分を同時にリクエストする。5人のリクエストの合計がプールから差し引かれるが、ここで引かれる分が予め参加者に伝えられている基準(T)を超えなければ、プールは再び満タン(100ユニット)に戻され、更新率(δ)に基づいて新しいgenerationに移行する。たとえば、プールがはじめ100ユニットで、T=50%、δ=0.8であった場合、各generationの取り分が1人あたり10ユニット以下であれば、80%の確率でgenerationが更新され続ける。しかし、利己的なエージェントが自分だけ20ユニット取る、などすれば、そこでgenerationの更新はストップする。実際、特に制約のない条件(unregulated)では、generationの更新はほとんど起こらない。

この"generation"は、まさに世代を意味する。次の世代に自分が含まれる確率というのは、たとえば10年後に生きているかどうかというようなことに対応すると考えられる。

ここで、民主主義的な選挙(voting)を取り入れ、generationのメンバー5人の提案した値の中央値を全員の取り分とするというルールを導入する。すると、世代の更新はほぼ完璧に起こることとなる。

このvotingが有効な理由の1つは、次の世代を考えるpro-socialなエージェントが多数派であれば利己的なエージェントをマスクしてしまうことが出来るためであり、個々が独立して意思決定を行う場合に比べてより少ない協力的エージェント数でゲームの持続性を高められるということである。そしてもう1つは、中央値ルールによって他を出し抜く必要がなくなり、そういう人がいるのでは、という懐疑的、競争的な心理を抑制することである。これにより、協力的なメンバー(仕方なく?)の人数そのものが増加する。

メンバー5人のうち3人だけにvotingを行わせ、他2人は独立に配分を決めるpartial-votingでは、持続性は極めて低くなった。これは京都議定書などの効力の弱さを説明する可能性があり、包括的な仕組みが必要であることを支持する。

現行generationにおける協力コストとなるTの値、そして世代更新率のδの値をそれぞれ低くすると、限定的ではあるがvoting ruleがあっても持続性は低下した。著者らはこの効果についてはあまり多くを述べていないが、これらは貧しい社会、将来に希望を持てない社会に於いては民主主義的な決定が必ずしも持続性を高める決定をしないことを示唆している。

反社会的傾向の人格障害などでこれらのパラメータを操作した場合のゲーム成績、神経活動相関などを調べるような仕事も出てくるかもしれない。